オーストリアはウィーンに拠点を置くショップ兼展示スペース「SONG」。ウィーンで”最も過激”なその空間は1998年9月1日に始まり、Maison Martin MargielaやDries Van Noten、Dirk Van Saeneらベルギーデザイナーを中心としたアイテム展開を行い、現在でもWalter Van BeirendockとMarina Yeeを取り扱う。今回はそんなSONGのオーナーであり、アートコレクターのMyung-il Song(ミョン・イル・ソン)が我々のインタビューに応じてくれた。
ウィーンにおけるファッション美を長年牽引してきた彼女自身のお店、ブランド、著書、そして日本とこれからについて。
ー今日はインタビューにお答えいただきありがとうございます。
こちらこそありがとうございます。
ーお店はオーストリアのウィーンということで、ウィーンについて少しお聞かせください。
ゆったりとしたペースでボヘミアンなライフスタイル、つまり創造的な生活があります。ウィーンコーヒーや多くの博物館と展示会、文化的にとても豊かな街です。
ーもうすぐクリスマスの季節ですし、ウィーンのクリスマスマーケットはとても有名ですね。街やあなたのお店もクリスマスに向けて活気付いているのでしょうか?
街はもちろん賑わってきていますが、SONGは普段と変わらず特別なことはありません。
ーお店の質問に移らせていただきます。まず、SONGの始まりについて簡単に教えてください。
自らの情熱を形にし、私の好きなもの、価値を感じるものを発信するためにお店を始めました。初めはたった3つのブランドと共に、とても小さな規模からスタートしました。
ー”SONG”の名前の由来は何ですか?
私の苗字から名付けました。
ーSONGのコンセプトや方向性をお聞かせください。
お店では私が発見したブランドやアイテム、魅力を感じるアーティストの作品を扱っています。その方向性は自由で固定されたコンセプトはなく、ただ美しい職人技によるアイテムを厳選しています。
ーお店独自の”Atelier Song”はどのようなブランドなのでしょうか?
Atelier Songは全て自社において、職人による手作業で作られています。また、生産数を限定することで、細部と品質への忠実なこだわりを実現しています。デザインのインスピレーションは映画、旅行、アーカイブデザイン、あるいは単に私自身が必要で探しているけれど見つけられないアイテムなど、さまざまなものから得ています。
(THE VAN)独自のブランドに加えて、SONGではかなり鋭いアイテムを取り扱っていますね。
私たちはラグジュアリーなアーティザナルブランドや、小規模な生産で丹念のあるブランドの取り扱いに注力しています。特に、ポール・ハンデンの"Robe"、ジョン・アレキサンダー・スケルトンのプリントシャツはSONGを象徴するアイテムです。
ーSONGにおいて最も記憶に残っている出来事は何ですか?
マルタン・マルジェラのアーティザナル展です。アーティザナルコレクションから13点の作品がSONGで展示され、パリから来たマルジェラのチームと空間を共に作り上げました。また、ドリス・ヴァン・ノッテンの展示会では、当時無名だったイギリスの写真家ジェームズ・リーブが撮影を担当し、印象深い出来事でした。
ーまた、お店の20周年にはご自身の著書“I'll wear it until I'm dead ”も出版されています。どのような内容の本なのでしょうか?
この本は私の所有するアーカイブアイテムと、これまで共に仕事をしてきたデザイナーたちとの関係を共有する内容です。主にSONGで取り扱ってきたメゾン・マルタン・マルジェラやドリス・ヴァン・ノッテン、ニコラ・ジェスキエールによるバレンシアガなどにフォーカスを当てています。また、マルタン・マルジェラやウォルター・ヴァン・ベイレンドンクからのメッセージ、ドリス・ヴァン・ノッテン、ポール・ハーデン、ダーク・ヴァン・セーヌ、カート・デボへのインタビューなども掲載しています。
(THE VAN)制作がスタートしたきっかけとは?
2018年にガリエラ美術館*で行われたマルジェラ回顧展からアイデアを得ました。実際に展示を目にした時、ほとんどの展示アイテムを所有していることに気づき、それらを共有したいと感じましたし、情熱を注いで集めてきたものたちと共に店舗の20周年を祝いたいと思いました。
*1920年に設立されたパリ市内の美術館であり、定期的な特別展ではファッションデザイナーの個展や特定の時代に焦点を当てた展示が行われる。
ーお店ながら珍しい取り組みです。SONGでは洋服以外にも本やフレグランス、家具などを取り扱っていますし、洋服以外への興味、挑戦に意欲的なように伺えます。
はい、まさにその通りで、常に私は”生活”について興味を抱いています。
(THE VAN)では、洋服以外の部分、まさに人間の生活や考え方、行動などもファッションの一部であると考えますか?
ファッションにおける選択は間違いなくその人自身の考え方や、大きな”人生”での選択と関係していると思います。
ーSONGのような画期的で斬新な活動やお店の形態は、オーストリアやウィーンにおいて数多く見ることができるのでしょうか?
残念ながらあまり多くはありません。
ーそんな中で精力的な活動を続けるSONGですが、今後の展望についてお聞かせください。
SONGでは新しい章が始まりを迎えます。これからは自社ブランドのAtelier Songはもちろん、プライベートな限定展示や体験にさらに焦点を当てていきます。
ー最後に、日本の読者に向けてメッセージをお願いします。
私は、日本の人々が持つファッションへの情熱と、日本人の個性を非常に尊敬しています。商業的なトレンドに流されることなく、むしろ好奇心を通じて自分自身の個性を追求しています。実際に大阪からは、素敵なカップルのお客様が長年足を運んでくれています。彼らが私の店に戻ってくるたびに感動を覚えますし、毎回ウィーンで新たな体験をしているのを見るのは本当に素敵なことです。