2025年1月下旬、井上栞太がデザイナーを務めるブランド「KANTA BY KANTA INOUE」が25AWコレクションを発表。真面目に不真面目というブランドコンセプトの元、SNSが生み出す虚構の中で自己理解を深めることを目指した今作。コレクションテーマは「SpotLife 日常を演じる」。
SNSの発達により、”日常を切り取る”シーンが増えた昨今。「その何気ない日常は本当にありのままなのか?」といった疑問から制作は始まった。例えば、部屋を撮影するとき、カメラのフレーム内は整っていても、その外には雑然としたものが広がっている。無加工を装った加工フィルターの存在も然り、「日常」を演出する矛盾に気づくたびに思わず笑ってしまうことが多々ある中で、現代の「日常」と「演出」の曖昧さを、批判ではなくユーモアを加え表現している。
ファーストルックを飾る鏡スーツに対して井上は、「ドレッサーに映る姿は、作られた自分。本当の自分は、その鏡には映らない部分にある。」と語る。私たちが日常の中で無意識に作り上げている「見せたい自分」と「本当の自分」のギャップが表現されており、まさに“演出された日常”の象徴となるアイテムとなっている。また二つ目のルックでは、井上自身初の試みとなるニットウェアが登場した。同じ大阪文化服飾学院の、ニットウェアコースに通う友人との共同制作によって実現したこのアイテムは、フロント部分に腹筋と胸筋のディテールを施し、シルエットとのコントラストを際立たせている。ボリューム感のあるシルエット、柔らかさと力強さ。圧倒的な存在感を放つこのアイテムは、彼のニットウェアの理想像をより鮮明にする仕上がりとなった。
さらに今作では、一着の中にコントラストを生み出すことに注力している。異なる素材の組み合わせや、前後で印象が変わるデザインによって、服そのものにギャップを持たせた。シルエットやディテールに試行錯誤を重ね、心情の変化や見栄を張る感覚をデザインに落とし込み、見る者に違和感を与えながら多角的な考察を促す仕掛けを施している。
このコレクションは、まさに学生生活の集大成になりました。4年間の中で出会ったたくさんの人たちとのコラボレーションを通して、一つ一つ形にしていったものです。そう考えると、単なるコレクションというよりも、この時間の積み重ねそのものが詰まっているような気がします。
ブランドとしての規模が少しずつ広がっていく中で、今まで以上に多くの人の目に触れる機会が増え、評価されることもあれば、厳しい意見をもらうこともありました。その中で、自分がこれから成長していくために必要な課題も見えてきた気がします。
このコレクションは単に発表して終わりではなく、次へと進むための大事な足がかりとなりました。ブランドとしても、自分自身としても、ここからまた新しい挑戦をしていきたいです。
Designerー井上 栞太