【interview】ファッションデザイナー中南響が日本で刻む独自のリズム
- ikuru15129
- 2023年11月25日
- 読了時間: 8分
更新日:2024年6月10日

2021年からスタートしたファッションブランドHIBIKINAKAMINAMI。今回はセントマーチンズやルイヴィトン、ハイダーアッカーマンと華やかしい経験を得た同ブランドのデザイナー中南響に迫った。モードが薄れ行く、そんな世の中で、なお真っ向からモードを描く彼の原点、イズムとは。
10%の細部を意識する
―初めに、ご自身のブランドに関しての質問です。24SSコレクションの特徴やテーマ、これまでとの比較についてお聞かせください。
テーマは、シーズンによって細部まで設定する時とあえて曖昧にする時があります。今回は、ブランドとして初めてメンズモデルをシューティングに起用するといった前提がありました。そこに向けて今までのドレッシーなアイテムに加え、メンズ寄りのカジュアルアイテムを作ること、つまりスタイルやテーマよりもプロダクトへのアプローチが強いシーズンでした。例えば、メンズのワークブルゾン、またレディースでは採用しなかったポケットやファスナーの付け方などをキーポイントとして探っていきました。
(THE VAN)私たちも展示会でアイテムを実際に着用して、ジップやスナップ、カッティングなど細部への拘りに魅力があると感じました。
ありがとうございます。ディテールが面白いと仰って頂くことが多いですが、実は自分の中ではそこまで前面的に考えてはいないです。重要なのは全体で見た時のバランスであると思うので、デザインの際は始まりを大胆にすること、そして最後に繊細な一押しを加えていく。そのような概念をすごく大切にしています。例えば、スウェットやブルゾンでは他にはないスタイルで全体のイメージを作った後に、小さくタッチを加えるといった感じです。全体のバランスから少しの締まり、10%の細部を意識することでシルエットにブランドの独自性が生まれると考えています。
―続いて、色使いに関してお伺いします。HIBIKI NAKAMINAMIはシックな色が基調であると感じましたが、AW22のイエロー、AW23のピンクを用いたアイテムはとても印象的でした。色使いでのポイントや、感覚について教えてください。
ブランドのスタイルとして、ソリッドなブラックを最も大切にしています。その黒を基調とした時に、どのような色が合うのか。そのシーズンに自分がハマっているものやインスピレーション等を見ながら、そこに好きな色を刺していくといった感覚です。AW22のイエローは、フォンタナというイタリアのアーティストからのインスピレーションです。カンヴァスに切り込みを入れる作品群が好きなのですが、その中にすごく綺麗な黄色があって、作品の鋭いイメージを色ごと表現したいと思い、アイテムに投影しました。
(THE VAN)そのような色はピンポイントで見つけることはできるのですか?
シーズンカラーを作成して生地を染色するところからデザインをスタートしているので、イエローやピンク、ミントグリーンなどオリジナルの色で表現することが出来ています。元々、色への拘りが強いこともありますし、インターンの時期に見ていたイタリア生地の色の影響、繊細でエレガントな色、”今”、綺麗な色がすごく頭に残っています。物としての美しさ、ビジネスとアートピースの間の表現を心がけているので、ブランドの美意識を反映する独自の色は大切な要素になってきます。
―最近ではスポーツや古着などのテイストと、モードスタイルをミックスしたデザインをよく見かけます。その中でHIBIKI NAKAMINAMIはモードをダイレクトに、真正面から表現しようという試みが伺えます。今、そのストレートな表現を行うことの意義や魅力についてお聞かせください。
デザインをする際に、その1着、仕事に自分が行う意義があるかを必ず考えます。ブランドにとって、そのブランドの名前を聞いた時に頭に浮かぶイメージがクリアであることが大切だと思います。ですので、必ずしも流行りのマーケットで戦うのではなく、自分の美意識に則ったスタイルを追求することこそがブランドの輪郭をはっきりとさせることに繋がります。そして、その試行の繰り返しがインディペンデントなブランドとしての軸になっています。
現代におけるSNSは、気を抜くと引っ張られそうになる魅力的なビジュアルで溢れています。ですが、多様化しているようで均質化しているプラットフォーム上では、スクロールしたその時間に見たもの、得たものが何だったのかが曖昧になりがちです。流行に乗ることはファッションの楽しさの大きな要素の一つですが、そこから1歩引いたスタイルもある、ということを選択肢として提案していきたいです。
ハイダーはファッションハウスの最高峰
―卒業されたセントマーチンズに関してですが、入学経緯や入学後ウィメンズを専攻された理由についてお聞かせください。
実は、初めはアントワープに行こうと思っていました。「思いっきりクリエイションをしたい」という気持ちがありましたが、当時の在学生の作品を見て自分とは違うテイストの場所だなと感じて。2つを比較した時に、セントマーチンズの方が好みだったことが一番の理由です。元々おしゃれが好きだったこともあり、自分で着ることが出来るメンズへの進学を考えていましたが、ここまで来たら表現の幅を狭めず新しいことにチャレンジしたいと思いウィメンズに行くことに決めました。
(THE VAN)やはりアントワープとセントマーチンズではかなり違いがあるのですね。
当時のアントワープは衣装的な側面も強く、しっかりファッションではありながらコンテンポラリーファションとは1歩引いたところで独自の世界観を作っているイメージがありました。対してセントマーチンズのウィメンズは、理解し難い作品が多いようでコンテンポラリーファションの流れを重視したデザインを推奨するイメージがありました。
―インターンを経験されたルイヴィトンではどのような学びがありましたか?
ルイヴィトンでは、同ブランドがラグジュアリーファッション界の頂点にいる理由を身をもって体感できました。会社として成熟していることもあり、それぞれのアイテムに割かれている研究開発費、人員、時間が桁違いで、多くの部署が関わりながらプロジェクトを成立させるサイクルが綺麗に出来上がっていることが印象的でした。もちろんマーケティング的な目線の情熱もありましたが、デザイナー側がアイテム一つに懸ける熱意や、その角度の鋭さが学生のそれとは大きく違い、自分の視野を広げてくれる機会になりました。
(THE VAN)その後のハイダーアッカーマンではどうでしたか?
ハイダーでは朝から晩まで、のような働き方で、一般的に想像されるようなハードワークなファッションデザインの現場でした。それでもインターン生やジュニアデザイナーは21時~22時には帰宅することがほとんどでしたが、ヘッドデザイナーやシニアデザイナーは毎日もっと遅くまで働かれていました。ルイヴィトンとは対照的に、少人数体制でコレクションを完成させる、パリのファッションハウスの最高峰を見ることができました。アクセサリーやフレグランス、鞄といった利幅の取れる商品を作らず、洋服のみにフォーカスしたブランドだったので、その点にもストイックな姿勢を感じ学ぶところが多かったです。
パリでショーをしたい