古着屋「STOF」がアントワープで構築する新たな空間
- ikuru15129
- 2024年7月16日
- 読了時間: 8分
更新日:2024年8月19日

©JefJacobs.jpg
控えめだが、ウィットに富んだ街アントワープ。王立芸術アカデミーを有する環境から、ファッション、絵画、彫刻など様々なクリエイターが行き交う芸術の街としても知られている。今回は、そんなアントワープに位置する古着屋「STOF」を営む二人のオーナー、Maude Van DievoetとKarina Zharmukhambetova、そして二人の同僚のBerivan Karagaacが我々のインタビューに応じてくれた。様々な分野にまたがるプラットフォームとしても機能するSTOFの存在に、ベルギーファッションの今、そしてベルギーと日本の関係性などを材料に迫っていく。
小さく、忘れられた部分に光を当てる
ーまず初めに、STOFのスタートについてお聞かせください。
きっかけはコロナ禍です。以前から友人であった私たちは、ファッション業界においてどのように働きたいかを考え直していました。私たちは共にファッションのバックグラウンドがあったため、お互いのやりたいことを補完し合う理想的なデュオとしてスタートすることができました。
主な目標はシーズンやトレンド、生産チェーンなどの典型的なファッション業界の規範に従うことなく、自分たちのやり方で物事を進められるプラットフォーム/ショップを構築することです。すべては自由への願いと、ファッション業界における品質と誠実さの欠如に対する不満から始まりました。
(THE VAN)そのような出発点から、マルチな活動を行う今に至るのですね。
STOFはベルギーと日本のデザイナーに特化した、複合的なプラットフォームです。洋服やアクセサリーの他に、本や雑誌の販売も行っており、独自のエディトリアルやインタビュー、イベントなど様々なタイプのプロジェクトを企画しています。
また、私たちの活動の大部分は、小さな、忘れられた、あるいは見過ごされているブランドやクリエーター、グループに光を当てることです。そのため、STOFは自分達自身のビジョンを実現するためのハブも同時に構築しています。
ーSTOFが特化しているベルギーのデザイナーに関して、率直にどう感じますか?
彼らが作る時代を超越したデザインにはすごく惹きつけられますし、その職人技は唯一無二のものだと感じています。その多くが"made in Belgium "のラベルによって、さらに特別なものとして認識されていますし、私たちが特化する理由でもあります。
アントワープ6のような大きな文脈も非常に面白いですし、あまり注目されなかったデザイナーもたくさんいますが、ベルギーという小さな国においても、私たちが面白いと思う新旧のブランドやクリエイターを発見し続けられるのは素晴らしいことだと感じています。
ーベルギーには建築や芸術面における素晴らしい歴史と文化がありますし、それらは王立芸術アカデミーの影響も大きいと思います。彼らの作品はそのような豊かな環境から生まれるのでしょうか?
その通りで、ベルギーのアートは多くのデザイナーやアーティストに影響を与えています。さらに、育った環境も大きく影響すると思います。ベルギー人のメンタリティはどちらかというと控えめでよそよそしいのですが、一度人とつながれば、それは本物のつながりです。これは多くのベルギー人アーティストに見られることですし、彼らはどれだけ大物であろうと地に足をつけて自らの役目に専念しています。
ーそういった歴史や環境のもとから今、ベルギーのファッションにはどのような特徴があるのでしょうか?
以前のモノへの再解釈を多く目にします。地元の人々の多くはファストファッションがシーンに登場する前のかつての状況を覚えていて、この品質と革新的なデザインを再び切望しています。人々はよりオリジナルなアイテムに再投資しようとしていますし、ロゴマニア的な誇大広告から離れ、むしろ一生着続けられるようなモノを求めています。なので私たちのようなお店は、ここアントワープでは非常に適していると思っています。アントワープのファッション事情は20年前と比べて大きく変わりましたが、新しい世代はファッションだけでなく、アートや音楽などの面でもそれぞれのやり方や集団的な活動によって、アントワープを再び特別な場所にしようと奮発しています。
ーSTOFではそのような、素晴らしいベルギーファッションを凝縮した空間が再現されているのではないでしょうか?
ここでは、みなさんにリビングのようにくつろいでほしいと思っています。幸いなことにこれはお客様が感じていることでもあり、利用しやすいとお褒めの言葉をたくさんいただいています。常連の方もその気軽さを好んでくれますし、そこからより個人的なつながりも生まれます。ブランドの組み合わせやアイテムのセレクトも、まるでパズルのピースのようにマッチしていますし、遊び心があってカラフルなショップにしたいと常に考えています。

(THE VAN)具体的にはどのようなお客様が訪れるのでしょうか?ベルギーファッションの熱狂的なファンが多いのでしょうか?
とても幅広いですね。もちろん、アン・ドゥムルメステールやマルジェラ、ラフ・シモンズの新作をいつも探している熱烈なファンもいますが、質感や形、色などのクオリティを重視する方も来店します。面白いのは地元と世界中の人々が混ざっていることで、大半は女性ですが、古典的なジェンダーにこだわらない方もたくさんいるので、彼らがどんなアイテムを探すのかとても興味深いです。アクセサリーは性別やサイズ、年齢に縛られないので、ここではとても重要ですし、メンズアイテムにもさらに愛情を注いでいくつもりです。
(THE VAN)お客様との楽しい会話も聞こえてきそうです。
お褒めの言葉や評価をいただくたびに、純粋に胸が熱くなります。地元の年配の方々が来店され、アントワープがSTOFで販売しているような商品で溢れていた昔のことを聞くと、とても魅力的な気持ちになります。昔からいる人たちから肯定してもらえるのは光栄なことですし、若い人たちも絶えず店に出入りしているので、面白いミックスがある空間です。
ーそんな魅力的な空間の中で、先ほどの本や雑誌の販売は、プラットフォームを掲げるSTOFにとって重要な取り組みであると感じました。
私たちの焦点はアーカイブを構築し、プラットフォームを成長させるために様々なコラボレーションを立ち上げることです。STOFを、あらゆるものを見つけることができるハブのような存在にすることは常に目指してきたことで、そのために本は外せません。特にそのデザイナーの作品を買うことができない人たちにとっては、彼らの世界を掘り下げることができるいい機会だと思います。今日、私たちはモード・ブックス・アントワープとのコラボレーションで実施していますが、これはお互いのビジネスをサポートし学び合う素晴らしい取り組みだと感じています。

日本で同じ考えの人に会うのは大きな夢
ーインスタグラムでは、コムデギャルソンやヨウジヤマモトに関するポストがありましたね。日本人デザイナーにはどのような魅力があると考えますか?
日本人の職人気質と繊細さだと思います。日本市場には常に一定の品質、誠実さ、謙虚さがあって、ベルギーのデザイナーも同様に知られています。だからこそ、私たちはこのつながりを融合させようとし続けています。
ー日本のリサイクルショップや古着屋では、コムデギャルソンやヨウジヤマモトなど、日本人デザイナーの作品を目にする機会が多くあります。ベルギーでも同様に、ベルギー人デザイナーの作品に日常的に触れる機会があるのでしょうか?
アントワープには、ベルギーの作品を見つけるために必ず行くべきスポットがいくつかあります。STOFはもちろんですが、Labels IncやRosierもとても良いお店です。年に2回、ドリス・ヴァン・ノッテンやウォルター・ヴァン・ベイレンドンクのストックセールもありますし、素敵なアイテムを手に入れる絶好のチャンスです。
さらに象徴的な作品を鑑賞するには、MoMu(アントワープのファッションミュージアム)やハッセルトのファッションミュージアムがオススメです。けれども私たちは、ベルギーの豊かなファッションの歴史に目を向ける余地はまだまだあると考えています。
ーベルギーのデザイナーが日本のデザイナーから影響を受けていたように、私たち日本人もベルギー人デザイナーの作品に大きな愛を抱いています。日本とベルギーが共にファッションを盛り上げられることは光栄ですし、あなた達のようなお店が何か日本でイベントを行えば、日本人はきっと大喜びだと思います。逆に、日本のお店がベルギーで何かのイベントを行える機会があれば、これ以上の喜びはないと思います。
お互いのことを愛しているのは確かなので、どちらもとても面白いと思います。日本に来て、同じような考えを持つ人たちに会うことは、私たちの大きな夢のひとつです。近い将来、何か企画ができるといいね!
ーオンラインで世界中からのアクセスが可能な今、あなたのようなお店がベルギーファッションの素晴らしさを伝える重要な役割を果たしていると思います。新たなチャレンジへの意欲や、お店が目指す理想像についてお聞かせください。
私たちは常に自分たちの仕事を通して学んでいるので、さらなる成長を常に探っています。自分たちに忠実である限りやりたいことは何でもできると言っていますし、自らの枠から一歩踏み出させてくれるため、コラボレーションはここで重要な役割を果たしています。
最も大きな目標はファッションだけでなく、それ以上のものをカバーする本格的なプラットフォームになることです。私たちの周りにはあらゆる分野で活躍する面白い人たちがたくさんいるので、音楽、アート、デザインなど、常にクロスオーバーしていくつもりです。
ー最後にベルギーファッションをこよなく愛する日本の読者に向けて、メッセージをお願いします。
近いうちに日本に来て、皆さんに直接お会いしたいと思っています。それまではぜひ当店(またはオンラインショップ)で、ベルギーと日本の素晴らしい作品をご覧ください。
ーSTOFオススメ4選
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