2023年4月15日、三軒茶屋にオープンしたHeralDo(ヘラルドゥー)。業界初となる"黒"のみを取り扱い、日本のブティックアイテムなどを掘り起こしながら、ジャンルレスかつ2000年代の雰囲気漂うスタイルを提案。モデルや音楽活動と並行する4人のスタッフに加え、オーナー兼スタイリストMiki Toyokawaが古着、そしてファッションという大きな枠組みに向けて送るサジェスチョンは追いつけないほど新しく、潔いほど鋭い尖がある。あなただけの黒、あなただけのスタイル、あなただけの色を探す、古着屋/ブティックに迫ったインタビュー。
ーさっそくですが、「黒」から思い浮かぶワードをいくつか教えてください。
まずは、"何にも染まらないこと"です。幼少期から自分色を持ちながら生きてきたので、自分の人生とどこか似ているような色だと感じます。2つ目は"自信"。何にも染まらないためには、自分を信じる力や強く見せることが大切です。最後は"奥深さ"。某女優みたいですが、黒にはたくさんの種類があります。質感や、マットな黒、艶っぽい黒など、ただの黒ではないところまで拘ることができると感じています。
(THE VAN)そのワードがお店の出発点となったのでしょうか?
今挙げたワードや、行き着く先の色としての感覚もあります。日本人は黒い髪で生まれてきますし、若い頃に染めても結局黒に戻っていたりしますよね。黒を嫌いな人はいないですし、色を頼りにしているお店も無い。面白そうだなと思いましたね。
(THE VAN)面白いからこそ、大変なこともありそうです。
初めの頃は、目が追いつかなかったです。黒をピックして持って帰ったら、ネイビーだったり...。それが何回かありましたが、もう慣れましたね。
ーすごく斬新なアイデアで、前例がないことに驚きも感じます。色が定められている中で、アイテムの見せ方などにこだわりはありますか?
白い空間に黒を置くこと。お店の内装にはこだわりました。色を大きく捉えてみると、黒と白を両極端に、その間の混ざり具合で様々な色が位置しています。なので、黒を強調するなら迷わず白でしたし、月替わりで展開しているMonthly Colorとの相性も非常に良いです。
ーHeralDoの語源はHerald+Doの造語で、"先駆する"の意があります。ブランドネームや希少性など、アイテムそのものの価値に比重が傾きやすい古着市場において、HeralDoのようなプロ目線のスタイル提案は興味深いですし、古着市場に対してのみならず、「ファッション」という表現方法への挑戦のようにも伺えます。
ファッションには正解がない中で、多くの悩みに対する発信は常に心がけています。僕が若い頃は裏原を筆頭に、古着屋の店員など憧れの人が多くいました。今は非対面が主流になりつつある中で、そのようなカルチャーが薄れているのも事実ですし、そこを閉ざしたくない気持ちもあります。大きなファッション業界を盛り上げていく上で、実際に憧れの店員と時間を共有することは大切だと感じています。少し尖った部分やピリッと張り詰めた空間、打ち解けていく中で見えるアットホームな店員の人柄など、お店の方向性を表現するための拘りもあります。「HeralDo」といった一つのファッションのジャンルを作るためには、HeralDoっぽさの表現も欠かせません。例えれば「二郎系」ですし、「黒い服屋」みたいなジャンルができれば面白いですけどね(笑)。
ーお店にはどのようなお客様が来店されるのでしょうか?
フラッと来る方もいれば、インスタをみて来てくれてたり、飲食店から紹介されて来られる方もいます。スタイリスト業の衣装もお店に並べていますが、それを求めて来られる方も。街のおばあちゃんも来ますが、若いスタッフ等と同じ空間にいるのを見ると感慨深いですね。
(THE VAN)この街にはお洒落なおばあちゃんが多いんですね。
全身ワイズのおばあちゃんも来ます。ヒステリックグラマーを見て懐かしんでいたり、黒だけの洋服に驚いていたり。それこそ、「今度お葬式があって...」と喪服を買いに来るおばあちゃんもいるんですよね(笑)。
ー三軒茶屋はどのような街なのでしょうか?
洋服に関しては、アメカジを中心に価格も少し高めなお店が多いですね。アメカジはスリフト感があっても面白いですが、それを綺麗に見せるお店も多い印象です。なので、隣の下北沢と比べれば価格の大きな差もないですし、同等なものを適正な価値で提案できる街だと感じています。店同士の仲もいいので、ギャルソン好きの方が違うお店の紹介で来店されたりといったこともあります。
ー月替わりの1色を楽しむMonthly Colorも展開されていますが、お客様の声なども色に反映されるのでしょうか?
割とランダムに設定しています。Monthly Colorではストリートや一枚で着れるものなど、三軒茶屋っぽさを表現しています。アメカジ系のお店も多いですしね。毎月被らないように12色設定していますが、1周年(4/15)にはMonthly Colorデーも開催しています。1年分の全色をお店に並べるので、とてもカラフルな1日。黒を発信していく中でも、違った色は差し色やメインで使えますし、そこも提案しています。お客さんによってはMonthly Colorだけを求めて来られる方もいて、ここがあるから黒が成り立つと思っています。
ー先ほどのお話にも出たように、MikiさんはHeralDoのオーナーの他に、スタイリストとしての顔もお持ちですが、どのような経緯からスタイリストを志したのでしょうか?
元々は美容師を目指して、美容学校に通っていました。当時からヘアメイクのようなクリエイティブやファッションが好きだったので、スタイリストという職種に自然と興味を持ちました。ずっと目指していたというよりかは、ちょうど自分に合うものがスタイリストだったという感覚ですね。
(THE VAN)それから、どのようにしてスタイリングを学んでいきましたか?
自分には師匠がいないので、割と独学ベースで勉強しました。今もそうですが、当時から大事にしていたのはたくさんの服に触れる事。スタイリストは洋服集めの達人であればあるほど、表現の幅が広がると思います。いくらお洒落であっても、服を集める能力が枯渇していたら自分の好きなスタイルは作れない。知識が豊富になれば、自分のスタイルや個性が表現しやすくなりますし、自分スタイルを自信を持って提示できると思います。
(THE VAN)自分スタイル。魅力的なワードですね。
「このスタイルをやるならMikiでしょ」のような存在になりたいです。そうなるためには、1つの服に対する着せ方のバリエーションが豊富であり、見ただけでMikiのスタイリングだとわかるようにしなければならないと思います。
ースタイリスト業とお店での表現において、工夫するポイントは異なるのでしょうか?
どちらとも、リアルクロージングと衣装の中間を作っています。衣装っぽいけど馴染みのある服を店頭に置いたり、リアルクロージングを着崩すイメージでスタイリングを組んでみたり。他にスタイリングでは、ファッションのストーリーを踏まえた表現を大切にしています。例えば、カートコバーンのようなグランジのスタイリングを頼まれたら、僕は服にスチームをかけずにグチャグチャの状態で持っていきます。なぜかというと、カートコバーンが毎日家でスチームをかけている想像ができないからです(笑)。そういったところもリアルに再現してスタイリングを組んでいます。
ー3月には、自身初となるエキシビジョンを開催されましたね。循環をテーマに、山手線1周を1駅ずつファッションで表現した、斬新な取り組みでした。
見ていただけて嬉しいです。このエキシビジョンは電車に乗っている時に、ふと思いついたアイデアです。山手線が1周循環している部分と、人間の血液循環を掛け合わせて表現しました。
(THE VAN)日常生活のふとした瞬間からインスピレーションを。
そうですね。日頃から目にする全てのものに対して、「もしファッションで表現したら」と考えています。当たり前に存在しているものを俯瞰的に見て、浮かんできたアイデアに少し捻りを加えて表現することが多いです。
ー最後に、HeralDoとスタイリストで目指す姿、提案の形を教えてください。
HeralDoもスタイリング業も、常にジャンルや常識にとらわれず、新しい形を提案していきたいです。自分の考えや個性を具現化したオリジナルのスタイルが、業界で注目されるようになれば嬉しいですし、そうなれるように頑張ります。また、この2軸に加えて、今年(2024年)の8月にはHeralDoの近くにフォトスタジオを作ります。新しいことに挑戦する初心の頃のバイブスも忘れずに、これからも突き進んでいきます。
HeralDo
場所:東京都世田谷区三軒茶屋1-7-13